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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)218号 判決

事実及び理由

一  請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について、判断する。

二  引用例の記載内容及び本願考案と引用例記載のものとの相違点がいずれも審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第三号証(手続補正書に添付された本願考案の全文訂正明細書)によれば、「本願考案は、海上又は陸上あるいは両者にまたがり配設された多数の海上標識の作動を、航空無線標識局からの電波信号の受信により同期させ、一斉にあるいは所定の時間ずれをもつて順次に行ない、多数の海上標識をグループとして所定の作動を行なわせ、海上標識の標識を明確にし、かつ、コストをきわめて低廉にした海上標識群の同期標識装置に関する。」「海上標識灯に親灯を設定し、その親灯から電波を発信し、その親灯を基準として他の標識灯を順次制御するものも考えられているが、親灯以外の標識灯には、電波受信装置と次段の標識灯に電波を送信する送信装置を必要とし、一斉同期点滅させるためには、多数の各標識灯のコストがきわめて高価になり、さらに各標識灯を一斉同期点滅させるための電波用として、別個の専用の送信局を設置せねばならず、この送信局の設置は、電波法上きわめてきびしい制約があり、実際には非常な困難をともなうものである。」とされ、本願考案が、海上標識群の同期標識装置において、送信装置の不必要によるコストの低廉、電波法上の制約の回避等を目的としたものであることが認められる。

原告は、審決は相違点(1)に対する判断を誤つたものであると主張する。ところで、特定の目的で公的機関から常時発射され、全国くまなく存在する電波を、他の目的に利用することによつて、そのために必要な設備の設置を回避するという考えは、例えば、NHKラジオ第一放送の電波にのせて発射される時報音を電波時計に組込んであるラジオ受信機で捕え、それを利用して自動的に時計の指針を正確な時刻表示に修正するものに見られるように、本願考案の出願当時、既に技術常識に属し、かつ、広く実用化されていたものである。作用効果の面から考察しても、電波法上の制約のある送信局の設置が不必要であること及び各海上標識には航空無線標識局からの電波の受信用空中線と受信機のみを設ければよく、構造が簡単になつてコストが低廉になることは、既存の航空無線標識局からの電波を利用することによる当然の効果であつて、当業者の予測しうる範囲のものというべきである。

また、航空無線標識局からの電波信号は、航空機の運航航路における運行を支援するためのものであつて、本願発明にかかる海上標識とは、その技術分野を異にするとしても、航空標識と海上標識とは管制の対象とする交通機関が空中のものか海上のものかの違いはあるものの交通機関の標識である点では共通しており、しかも、航空標識においては信号として電波が用いられ、引用例の海上標識装置においても、指令信号として電波を用いることが示されていることからすれば、交通標識における信号としての電波の利用にかかる両者の技術分野間には、親近な技術的関連があるというべきである。そうであれば、本願考案にかかる海上標識に関する技術分野に航空無線標識局からの電波信号を用いることは、任意に選択できる事項であるというを妨げない。

相違点(1)に対する審決の判断は相当である。

次に原告は、審決は相違点(2)に対する判断を誤つたものであると主張する。しかしながら、いわゆる順送り制御と一斉制御とは、ともに情報あるいは信号の伝達方式として周知慣用のものであつて、必要に応じて容易に選択可能なものである。成立に争いのない甲第四号証(引用例の実用新案公報)にも、考案の詳細な説明の欄に、「多数の標識灯を配設する場合に、その相互間の点滅制御を、同時又は順次に制御し、標識効果を大いに向上せんとするものである。」との記載があり、順送り制御と併わせて一斉制御も示唆されていると見ることができる。しかして、順送り制御に比べて一斉制御の方が信頼性が高いとしても、それは周知慣用な一斉制御方式を選択したことによる当然の効果の域を出ない。

そうであれば、相違点(2)について、引用例における順送り制御に代えて、本願考案における一斉制御を用いることは、当業者において格別の考案力を要しないとした審決の判断に誤りはない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

所定の間隔・形状に多数の海上標識を配設し、前記各海上標識の閃光点灯又は明滅点灯の標識作動を、航空無線標識局からの電波信号の受信により同期させ、多数の海上標識の標識作動を群として作動させてなる海上標識群の同期標識装置。

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